紙メディアのデジタル部門責任者が吐露、紙とWebの「溝」は埋まるのか!?

By | 2017年5月22日

おはようございます、スマリストの田嶋です。

突然ですが、長いこと紙メディアを主力としてきた企業が、いざメディアのWeb化を進めるぞという段になって、思うように進まないというのはよくある話です。

そのような中、紙主体から紙・Web両軸への転換を精力的に推し進めているとウワサの鈴木氏に、実際に直面した苦労や失敗、そこで得た知見について根掘り葉掘り取材してきました。Web化を進めようと思っている方には参考になる内容です!

今回お話を伺ったサンケイリビング新聞社の鈴木さん。

サンケイリビング新聞社の鈴木様

鈴木 美和(すずき みわ)
1988年リビング新聞グループ入社。社長秘書・人事部門の後、OL会員組織や主婦の配布組織・地域営業部隊など、女性組織のマネジメントを多数経験。紙メディアの広告営業を経て、2006年に「働く女性活躍支援」の社内新規事業を立案・推進。2010年にデジタル部門の責任者となり、紙と連動したデジタルメディアの強化を目指す毎日。


1.サンケイリビング新聞社とは

会社と事業、部署について

-まずは御社について教えていただけますか?

サンケイリビング新聞社は、紙メディアを中心とした女性のための生活情報誌を発行している企業です。フリーペーパーの主要メディアは3つあります。『シティリビング』はオフィスで働くOL向け 、『リビング新聞』は主婦向けに、『あんふあん』は私立幼稚園を中心に配布しています。フリーペーパーとしては発行部数が多く、日本最大級と言っていいと思います。

-デジタルコンテンツ部の役割は何でしょうか?

社内全てのWebメディアの企画、運営、運用を行っています。それぞれの紙メディアの方での方針があるので、私たちの部署だけで決めるのではなく、調整を行いながら意思決定を行っています。


『シティリビングWeb』の立ち上げ背景

-Webメディアの立ち上げ背景を教えていただけますか?

各Webメディアの中で一番古い『シティリビングWeb』についてお話しします。

1996年に『夕刊フジ』のWebサイト「ZAK. ZAK」の中で、OL向けの一コンテンツとして開始しました。紙版『シティリビング』のコンテンツをそのまま流用していたのですが、紙版がOL向けにも関わらず、『夕刊フジ』読者は男性が多かったことから、Webサイトとして独立させようという流れになったようです。

-どのくらいのWeb会員がいるのでしょうか?

開始時は東京版だけで5800人ほどの登録会員がいて、現在は41万人となっています。「東京版」と言ったのは、紙版『シティリビング』は全国8エリアで展開されていて編集部もそれぞれあるためです。各編集部と連携してWeb版のメディア運営を行っているので、今でも日々、調整に尽力しています。

-それぞれの紙メディアの編集方針と折り合いをつける作業は一筋縄ではいかなさそうですね。

紙メディアとWebメディアの違いについて語る


読者を味方にする『シティリビングWeb』の特徴

-『シティリビングWeb』にはどのような特徴があるのでしょうか?

組織で働く女性を対象とした記事と、勤務地域の地元情報記事から構成されています。記事コンテンツは編集部だけでなく、読者にも制作してもらっています。

-記事の質も気になりますが、「読者が記事を制作」とはどういうことでしょうか?

読者に『シティメイト』と呼ばれる公式ブロガーとなってもらい、記事を執筆してもらっています。誰でも良いわけではなく、ひとりひとり面接を受けてもらうことで、記事の独自性と質も担保しています。

彼女たちにはサイト内ブログで記事を書いてもらったり、読者イベントの運営支援やレポーターとして活動してもらったりしています。さらには、編集部の代わりにプレス発表会に赴いて記事を作ってもらうこともあります。

-読者がプレス発表会に出席するなんて初めて聞きました……!

れっきとした編集メンバーの一員です。今では、彼女たちの記事を見て問い合わせをもらい、テレビや新聞などのメディアに出演することも少なくありません。読者が主役のメディアづくりは、公式ブロガー制度を始めたころから思い描いていました。3年ほどかかってしまいましたが、ようやく実現しつつあって嬉しく思っています。


紙の会社がWeb事業を進める上での苦悩と苦労

Webでは実用性やロジックが求められる

-紙メディアを主軸とした事業からのWeb化を進められていますが、多くの苦労があったと思います。

あはは、たくさんありましたね。

私はもともと紙メディアの部署にいたのですが、会社としてもWebを強くしていこうということで、7年前にデジタルコンテンツ部に責任者として異動しました。社内全Webメディアの担当部門なのに、その時点で私にはデジタルの知識はほぼゼロ。紙メディアとWebメディア(※以下、紙とWeb)との違いに頭を抱えていました。悩める素人リーダーの登場は、チームメンバーに動揺を与えたかもしれません。

-たとえばどういうところに違いを感じましたか?

まず驚いたのは、紙とWebとで読者の求めるものが違うことです。Webでは実用性や読みやすさ、論理性が重んじられる傾向がありますよね。デジタル部門に来た当初は、Webメディアの記事を見たとき、デザインもレイアウトもあっさりしすぎているように思えて「なんて味気ないんだろう」と感じていました。


紙とWebでコンテンツを変える必要性がわからない!?

-読者に違いはありますか?

紙とWebとで向き合うときの姿勢が変わります。紙で記事を読むときは、比較的ゆったりとコンテンツを味わおうとしますが、Webだと急にせっかちになってしまうと思っていて。通勤中や就寝前の時間に、必要な情報を浅く早く拾っているようなイメージです。

-言われてみれば、その通りかもしれません。

私たちデジタルチームは現場でそういった知見をためていったのですが、他の部門にはなかなか伝わらず……。「紙とWebとでなぜコンテンツを変える必要があるのか、紙の記事をそのまま載せればいいじゃないか」「なんならPDFでもいいのに」とよく言われていました。

-どうやって理解を促していったのですか?

紙の記事をそのままWeb版で再録したものと、Web用にオリジナルで作ったものを掲載して比較し、数字を見せて「ネ、違うでしょ?」ということをコツコツやりました。実際にページビュー数が変わってくるので、それなら納得しますよね。

-細かく数値化できることもWebの特徴のひとつですね。

そのぶん悪い結果と直面することもあります。たとえば、『シティリビングWeb』以外のサイトでしたが、全国各地の味噌汁の写真を投稿してもらう「全国お味噌汁図鑑」という企画を実施したことがあって。フタを開けてみると写真の投稿数が少なく、PV数も大ゴケしてしまいました。

当時は完成形から想像して企画していたんです。切り口が面白ければ盛り上がると考えていましたが、振り返ってみると、ガラケー時代にわざわざ自宅の味噌汁の写真を投稿しようと思いませんよね。投稿までの導線や、写真を投稿する読者のモチベーションやメリットを考慮すべきだと学びました。この他にも、いろいろ失敗しています(笑)。

紙メディアのWeb化を語る


コミュニケーションのスタート地点が異なる

-紙とWebの違いは他にはありますか?

コミュニケーションのスタート地点が違います。フリーペーパーは読者に届いている前提で制作されるので、編集者は「いかに読んでもらうか」に注力できます。一方で、いくつもある情報の中から「いかに選んでもらえるか」を考えるべきなのがWebです。だからタイトルのひとつひとつが紙よりも主張が強く、切り口や内容もより魅力的でなくてはならないと思っています。

-Web上には有象無象のコンテンツがあふれていますからね。

リーチも変わってきます。紙の読者数は決まっていますが、Webでは無限に増える可能性があります。導線設計がとても重要になりますが、これは紙には無い視点ですね。

紙の読者と同じ属性を持った人を”紙の外”から無限に連れてくることが、Web担当としての私の役割でもあります。当初は「フリーペーパーが届いていない読者を増やしても仕方がない」と言われていましたが、今はWebの可能性を理解してもらえるようになりました。


紙の人は「トップページにバナーを貼りたがる」(笑)

紙メディアでは表紙が大切なので、紙の編集者はWebメディアを運営するときもトップページにこだわりがちです。しかし、Webはコンテンツから入ることが多いですよね。そこがなかなか腹落ちしない。そのためトップページ信仰が蔓延していました。「自分の関与した記事への導線がトップページから貼られていないのはなぜだ」と怒られたことも数えきれません(笑)。実は私も、最初の頃はそうでした(笑)。チームメンバーのみなさん、ゴメンナサイ、です。

-Webコンテンツにはトップページ以外からも様々な導線がありますよね。

自分だっていろんな導線からコンテンツを見ているハズなんですが、みんなトップページにリンクを貼りたがる。「トップページにバナーを貼ってほしい」と言われ続けるし、やらないと喧嘩になるので、以前は仕方なくバナーを作っていました。


紙とWebでは広告費が桁違い

そもそも会社全体がWebに対して抵抗感を持っていました。人は、新しいものには警戒心を抱きますから、ある意味、仕方がないんです。この部署に来る前は、私自身もそうでしたし。もうひとつ大きいのは、広告料金の違い。紙とWebとでは広告料金の桁が違っていたので、会社としてはWebに舵を切りにくいんですよね。高い広告収益に合わせた人件費構造もありますし。

-いわゆる”イノベーションのジレンマ”ですね。

「Webは紙にとっての限られたリソースを取り合うライバルではない」「むしろリーチを拡大し、読者とのコミュニケーションを深める武器だ」と理解してもらうのは、とても骨が折れました。

-Webのメリットの社内理解のためにどんな活動をされたのでしょうか?

デジタルチームのメンバーが社内勉強会を開いたり、現場の営業マンから要望を聞いたり、マメに飲みニケーションもしながら徐々に進めましたが、すぐには理解は深まりませんでした。きっかけとなったのは、営業促進チームの応援もあり、デジタルチームで作った仕掛けがクライアントから評価され、売上がついてきたことです。営業マンも外からの評価を得て初めて「Webも売れるんだ、求められているんだ」と気付いてくれたのだと思います。

今ではデジタルチームはたくさんの相談が来る存在になりました。Web発の企画を紙チームが活用するといった「逆流」も産まれています。デジタルチームが頼られる度に、チームメンバーと一緒に「やったー!!」と喜んでいます(笑)。

-Webの理解が社内全体に広がっていくのは嬉しいですね。本日は有意義なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!


あとがき

紙をベースとしたこれまでの組織文化とうまく折り合いをつけながら、常識を異にするWebの世界に足を踏み入れ、思い描いた理想を実現させていく。そのような苦労と奮闘の日々が伝わってきました。

失敗から得た学びを次に活かし、未知の領域で挑戦し続けることの大切さを教えていただいた気がします。

鈴木さん、改めましてありがとうございました!

以上、『紙メディアのデジタル部門責任者が吐露、紙とWebの「溝」は埋まるのか!?』でした。


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